郵便局年末アルバイト体験記

「ゆうメイトやめた瞬間クレーマー」
「世間の常識は、郵便局の非常識」

いまやアルバイトやパートタイマーは、日本経済に欠かせない存在となった。学生、フリーター、主婦たちの労働力なくして経営はなりたたない。郵便局もその例にもれず、外務・内務に占める割合も増大している。郵政4事業の中で、郵便は前年割れとなった。郵政民営化は、どこまで「古い体質の郵便局」を改善できるのか。




※面接は、たったの5分たらず ※アルバイトは、単なる作業者に過ぎない ※息つく暇などない
※まともな職員はいないのか ※非常勤職員はつらい立場 ※夜、かかってくる電話は誰もとらない
※課長がアルバイトと同じ仕事をしている ※他部門の職員とのコミュニケーションがない ※井の中の蛙の職員たち
※「トヨタ生産方式から学ぶべきこと」 ※アルバイトが集まらない ※5日間の体験で十分だった

面接は、たったの5分たらず

暇だからアルバイトでもしようかと、ネットサーフィンしていたら、郵便局の年末バイトを見つけた。近いし、内勤で、歩合のいい深夜勤務もある。短期間で少しは稼げるだろうという軽い気持ちから、サイトに書かれていた総務課に電話してみた。免許証と印鑑を持って、○日に来てくれ、とのこと。なぜ、そんなものが必要かといぶかしく思いつつ、指定された場所と時間に出かけた・・・。

総務課を訪れると、職員たちがのんびりと談笑している(そのように見えた)。「アルバイトの面接に来ました」と伝えると、「必要事項を記入して下さい」と1枚の用紙を渡された。現住所、名前、生年月日、連絡先の電話番号、それに「健康状態はどうですか」「郵便局でアルバイト経験はありますか」「守秘義務を守れますか」など、いくつかの質問事項と押印の欄があった。学歴や職歴、家族構成など、立ち入ったプライベートな項目がないことに妙に感心したが、次第にその無意味さを知ることになる。 記入必要時間数分。

書き終え、しばらく待っていると、担当の女性が「今から面接しますので、こちらへ来てください」と別の場所に案内した。そこには、課長のネームプレートのついた年配の男性と、担当者がいた。課長席に向き合って座る。さきほどの女性から受け取ったコピーを見て、課長が質問した。「結婚していますか」と聞こえたので、「していません」と答えると、「健康状態はどうですか」だった。小声で、くちごもって、よく聞こえない。そして、「郵便局のアルバイトは初めてですか」「守秘義務は守れますか」など、さっき記入した内容と同じことを聞いてくる。(守秘義務とは個人情報の漏洩だけでなく、このような局内事情を明らかにすることも含まれるのだろうか)。彼の面接目的や採用基準が理解できない。5分もしないうちに、「これで面接を終わります。帰っていただいて結構です」と、相変わらず事務的な口調。すでに惰性になっている。委細面談とサイトに書いてあったが、業務内容の説明や質疑応答など一切なく、免許証の提示も求められなかった。たかが、アルバイトという発想か。

席を立ち、帰りしなに、「最初から採用する気などないのではないか。それにしても、礼儀を欠き、面接者のレベルも低い」と内心思いながら、念のために、「結果はいつごろいただけますか」と尋ねると、「2、3日後になります。なにせ応募者が多いものですから」と相手の気持ちに配慮しない答え。「時給はいくらですか」と続けて聞くと、「780円です」。それは、おかしい。昼間が740円と表の募集ポスターには書いてあった。深夜勤務手当てが加算され、もっと多いはずだ、と思い、意図的に「え?780円ですか。お電話に出られた方は900円くらいではないですか、とおっしゃっていましたが・・・」と確認したが、結局、同じ答えだった。あほらしい思いで帰宅した。

アルバイトは、単なる作業者に過ぎない

「結果は、2.3日後に、ご連絡します」ということだったが、全くの無しのつぶて。時給も安いし、所詮、郵便局の体質はあんなものだろう、と自らを慰めていた。連絡があったのは、面接10日程してから。用件は、いきなり「明日からお願いします」。相手の意など全く介していない様子。単なる作業でアルバイト採用をしている。すでに労働意欲をなくしていたが、相変わらず暇だし、「まあ、いいか」と気を持ち直して、「分かりました」と返答した。その後、給与の計算を改めてしてみたが、実働20日として年末まで働いたとしても、大した額にはならない。正直言って、あまり乗り気ではなかった。

翌日、指定された夜10時前に郵便局に着いた。従業員入口から入り、近くで働いていた職員に「今日からアルバイトをすることになった○○です。ご担当の△△さんをお願いします」と声をかけた。「10時になったら、ミーティングをしますので、しばらくお待ちください」との返事。建物の角に立ち、忙しそうに作業している人たちを眺めていた。ネクタイのない私服の人もおり、誰が職員で誰がアルバイトかよく分からない。 深夜勤務の非常勤職員(長期アルバイト)やアルバイトが集められ、ミーティングが始まったが、騒音のせいか、内容は、ほとんど聞こえなかった。アルバイトの数は、自分を含めて4人。みんな若い。学生それともフリーター?深夜勤務募集数は5人とサイトに書いてあったので、充足しておらず、やむなく自分に声がかかったのかもしれない。(後で聞いたが、そのうちの1人は当初、昼間勤務を希望していたが夜に回された、と言っていた) 20代後半に見える不精ひげの男性が作業指示を出し、自分と、もう1人が小包区分の場所に連れて行かれた。こうして、アルバイト初日がスタートした。

息つく暇などない

この郵便局は、都市圏にあり、規模的にも有数の集配センター。24時間稼動している。国内外からの小包が満載されたトラックが深夜に何回も到着する。歳暮シーズンということもあって、より多忙なのは当然だろう。作業は、複数のカートに積まれた小包を配達地区別に区分けし、バーコードリーダーで読み取る。配達指定日の記載されたものもあるので、貼りつけられた伝票を1つ1つ確認しなければならない。りんごやみかんなどの箱は重い。長髪の男性の話によると、以前は重量制限があったが、現在は撤廃され、大きさだけで料金が決まるとのこと。民間運送業者とのサービス競争の結果だ。軽いものもあるが、1回の作業で、全部で100〜300個。結構疲れる。

時節柄、歳暮ののしが貼られた箱も多い。酒、果物、菓子、水産物、米・・・。活魚・錦鯉と書かれた箱もあった。発送元は、個人や企業に加え、百貨店、スーパー、農園、漁協・・・。これも種種雑多だ。歳暮の習慣は日本独特のものか。いつから始まったのか。景気の回復で、歳暮の量は復活したのか。年の瀬も押し迫ると、さらに鰤(ぶり)が加わり、業務量が拡大する。 息つく暇などない。

30分ほどで、その作業が終わり、引き続いて2階に上がった。郵便物の区分け作業だ。15センチほどの間隔で仕切られた7、8段の棚に配達地区別に郵便物を区分けする。あらかじめ機械で地区別になってはいるが、地区外のものや、住所がいい加減なものも混ざっている。初めての経験のせいもあり、担当する数十地区の中から、該当する棚をさがさなければならない。棚を見つけるのに、慣れるまで時間がかかる。郵便物のほとんどは、ダイレクトメールなどの業務連絡用。今や私信はほとんどない。メール時代の影響だ。 大量の郵便物が次から次に運び込まれ、15日以降には、さらに年賀状が加わる。作業が途切れることはない。黙々と立ち仕事が続く。

12時になって、やっと休憩の声。最初の休憩時間は1時間。その後、業務終了の朝6時45分まで、15分と30分の休憩が1回ずつある。トラック便到着時間等の業務調整だろうか、休憩時間のばらつきの理由は分からない。昼間であれば食事時間もあるが、約9時間拘束の間、休憩時間にすることはない。せいぜい、屋上で寒風のなか、タバコを吸うくらいだ。

作業再開。郵便物を区分けしていると、ブザーの音。アルバイトたちは、1階にある大型区分機械のある場所へ急いで下りる。その機械は、高速で郵便番号を読み取り、地区別に瞬別する。郵便番号がない場合、住所を直接解読する機能もある優れものだ。郵便番号が導入されるまでの手間を考えると、大きく効率化されたに違いない。棚毎に収められた郵便物を取り出し、順番とおりに束ね、別のケースに納める。それを2階へ運ぶ。 ベテランたちは、さすがに作業が早い。この作業は、不定期だが、深夜だけでも4、5回ある。終わると、2階の郵便区分を再開。小包のトラックが着くと区分を中断して、小包の区分け、ブザーが鳴ると、機械からの郵便物の取り出しとあわただしい。この三つの作業が、我々アルバイトの仕事内容だ。4時近くになると、眠気と疲労が溜ってくる。壁の時計をチラッとみて、後3時間と自らを鼓舞する。 残り15分ほどになったとき、夜勤責任者の職員が8時まで残業していただけませんか、と言ってきた。他の3人は同意している。自分も、外は小雨が降っているし、「まあ、いいか、時給も時間分増えるし・・・」と作業を続けた。

まともな職員はいないのか

勤務終了時間の8時になった。しかし、職員は何も言ってこない。6時から出勤していたオバちゃんが気を使ってくれて、「時間ではないですか。お疲れ様でした」と職員に聞こえるように言った。これで、やっと解放される。帰る前に、昨日、面接担当者から電話があったとき、シフトの説明をします、と言われていたので、声をかけた。彼は失念していた。当面、月曜から金曜までの週5日で3週間、希望すれば延長できるらしい。再度、時給はいくらかと聞くと、790円と10円アップしていた、深夜手当てが別に20%加算されるのですね、と念を押すと、やっとここで彼は、「そうです」と言った。 給与支払い日はいつですか、と聞くと、翌月18日とのこと。振り込みの書類が必要ではないか、と畳み掛けると、「説明会に参加されなかったのですか」と聞いたので、「そんなのがあったのですか。初耳です」と返答した。すると、彼は、「ではこの後、総務課へ行って書類をもらってください」と言う。自分の非など認めようともしない。窓口が彼であれば、彼が書類をもらってきて、説明するのが筋ではないか、と思ってもみたが仕方ない。

総務課に行くと、課長しか出勤していなかった。事情を説明すると、担当者が来るまで15分ほど待って欲しい、と言われた。課長が代行して、書類を準備し説明すれば済むことなのに・・・。早く帰宅して休みたかったので、待てない旨を伝えると、「分かりました。では担当が出社したら伝えておきます」との回答。翌日、例のアルバイト採用担当者が総務担当から書類を受け取り、自分に渡されると期待していたが、何もなかった。6時45分に業務終了して、 8時過ぎまで待てというのか。まともな職員はいないのか。民間企業では考えられない。違和感を感じた。 この時すでに、金曜までの5日間働いて辞めようと決めていた。アバウトで3万円強か。パチンコで、4、5回連荘すると、数時間で稼げる額だ。働いて金を稼ぐのは本当にしんどい。

非常勤職員はつらい立場

郵便物取り出しと区分け、そして小包整理が朝まで繰り返される。昨日の長髪の男性とは別の人が指導役についた。どうも、彼らは非常勤の職員らしい。慣れのせいか、二人とも作業はてきぱきとしている。しかし、同じほどの年齢の女性職員に「君づけ」でためぐちをつかれる弱い立場。「実は、昨日から課長が変わりました。その課長に、チルド食品を床に直接置くな、とさっき叱られました」と落ちこんでいた。 そう言えば、昨日、我々が機械から振り分けられた郵便物を取り出す作業をしていたとき、その課長は、背後で腕を組んで、しばらく見つめていた。面接を受けた課長の後任者だが、赴任したばかりで肩に力が入りすぎているのではないか。荒捜ししているだけにしか見えない。非常勤職員は職員並みの仕事をしているのに、我々短期アルバイトと同じ時給。ボーナス時に多少の金が支給されるようだが、割りが合わない。それでも働かざるを得ない事情が各人にあるのだろう。

夜、かかってくる電話は誰もとらない

「疲れるでしょう」と非常勤職員が声をかけてきた。「今日の昼間なかなか眠れませんでした」と答えると、「自分も同じで、時々薬をのんでいます」とのこと。アルバイトの他の 1人も、「3時間しか眠っていません」と休憩時間に言っていた。身体を壊しては、元も子もない。「最近、自衛隊退官後10年間、非常勤職員をしていた30歳の先輩が『こんな仕事をいつまでも続けていると命を縮める』という捨てせりふを残して辞めました」そう教えてくれた彼は、11日間休み無しで働いたこともあった。 次のようなことも話してくれた。「上司はもちろんのこと、夜、かかってくる電話は誰もとりません。大半がクレームの用件と分かっているからです。」「課長職の異動が早い。前任者は、特定郵便局の局長になり、定年を迎えるそうです」「特定郵便局の局長の娘を嫁にもらうと出世するとも聞きました」。道理で、あの面接もなげやりだったのか。「今回の課長は、赴任前からあのような態度を取っている、と聞いていました」そのせいか、彼らは課長の前で萎縮しているように見える。

課長がアルバイトと同じ仕事をしている

改めて募集サイトを見直すと、求人数に変化がなかった。すでに2週間近く経過している。更新をしていないのだろうか。

サイトには、
郵便内務
・12:00〜20:45 3名 ・22:00〜6:45or22:00〜9:00 5名 ・10:00〜20:00の間で3時間以上 約150名
郵便外務
・8:00〜16:45 10名 ・10:00〜15:45 約50名 とある。

時給欄は何故か、空白。 アルバイトが確保できていないのではないか。時々、例の課長や職員が我々と同じ単純作業をこなしている。ある意味、人件費の無駄だ。しかし、このままではノルマがこなせず、やむを得ないのだろう。アルバイトを確保できていれば、その必要はない。と言って、募集の努力をしているようにも見えない。 昔と違って、アルバイトの職種や募集数は増えた。ネット募集や求人誌がはやる所以だ。気の利いたものなら、より条件のいい魅力的な仕事を探す。まして、年末。郵便局の仕事など、若者は、今や振り向かなくなったのではないか。 集まってくるのは、高齢の女性ばかり。若い女性は見向きもしない。生活に追われ、求職活動をするが、なかなか求める仕事は見つからず、やむを得ず、残された郵便局に職を求める。50代の知り合いの女性が言っていた。「友達が郵便局でアルバイトを始めたが、苦情係りに回され、辞めたいと不満を言っている」。苦情係りこそ、職員が行うべきではないか。ここにも、郵便局の姿勢が見え隠れする。

他部門の職員とのコミュニケーションがない

翌日。出勤して例の担当者に、手続き書類は届いているか、と尋ねると、「何の話?」という態度。「総務課に行って書類をもらうように、という話です」と説明して初めて「ああ、そうでしたね」。しかし、案の定、書類は届いていなかった。 同じような話は、他のもある。郵便物区分け担当のアルバイト女性が、「この棚の蛍光灯が古くなっています。取り替えていただけませんか」と頼むと、その責任者は「直接、総務課に言って下さい」と我関せずの返答。蛍光灯が消えると作業に支障をきたす、という発想はないのか。ここにも、アルバイトに働いてもらっている意識はない。業務開始のミーテイングの時、珍しく課長が出てきた。責任者の話の後、「小包区分の場所は少し寒いので、ジャンバーを準備します。個人のものは休憩室に置いて着ないように。」と言って、各人のサイズをメモし始めた。その後、小包区分の時間になり、「ジャンバーはあるのでしょうか」と尋ねると、「課長は帰りました」。「自分の物を着ていいですか」「いいんじゃ、ないですか。あれは課長の話です」。訳がわからない。

井の中の蛙の職員たち

休憩時間に、地方出身の22歳の非常勤職員と話す機会があった。彼は、専門学校を卒業し、昼間バンド活動をしている。この仕事を始めて3ヶ月。「いつも怒られてばかりです」と自嘲気味に言った。いま、このような若者は多い。働く意義とは何か。生活費を稼ぐことだけではないだろう。できれば、自己の向上、働き甲斐を感じる仕事がベターで、人々の役に立つ仕事、喜んでもらえる仕事であれば、もっといい。「将来のことは何も考えていません。バンド活動に未練を残したくありません」と話していた彼だが、分かれしなに何かを感じたのか、「12月でこの仕事は辞めます」と言った。肉体労働は概してそうだが、特にアルバイトとしてのこの仕事は、金以外得るものはない。時間の無駄だ。

確かに職員たちも、不規則な時間帯のなかで、忠実に仕事をこなしているかに見える。しかし、何年たっても同じことの繰り返し。壁やドアに「トヨタ生産方式を学ぼう」とか「新時代の郵便事業」とか、どこでも見かけるキャッチフレーズが沢山掲げてあるが、改善はあっても、個人の向上は期待できない。 郵政の民営化は彼らにどのような意識変革を迫るのか。 短期のアルバイトを通して彼らを見るだけだが、郵便事業はサービス業という原点が、職員1人1人に浸透しない限り、たとえ給与や福利厚生面で中小零細企業より勝っているとしても、やりがいや将来性の点では全く魅力を感じない。外部との接触はほとんどなく、作業に追われる毎日。井の中の蛙の職員たち。新しい仕事の広がりは少なく、時間だけを重ねていく。その代表例が、配達員。入局すると、定年まで配達の繰り返し・・・。

「トヨタ生産方式から学ぶべきこと」

ある非常勤職員が、去年も年末の短期アルバイトをした人に「効率が悪くなっているように思いせんか」と尋ねた。彼は、何も答えなかったが、「我々のような新人アルバイトが足を引っ張っているのではないですか」と半ば冗談に口をはさむと、「いや、トヨタ生産方式の導入も少なからず、影響していると思います。幹部は、リストラに怯えているのか、自己保身を優先し、現場の声に耳を傾けてくれません」と答えた。確かに、職員たちは既得権を失うまいと戦線恐恐としているようにも見える。 郵政民営化を控えて、経団連・奥田会長の肝煎りなのか、トヨタの生産方式が今年新年度から導入された。そう言えば、出勤時に名刺大の表を受け取り、休憩、業務内容を時間毎に記入して、退勤時に提出する。そのデータを、昼間、パソコンに入力・解析して、業務改善を図ろうというねらいだろうが、先進的な世界企業と郵便局を同じ土俵に乗せることに無理はないのか。公務員体質がそう簡単に変わるとは思えない。

アルバイトが集まらない

次の日、出勤簿に判を押そうとすると、振り込み書類が自分のページに挟んである。例の担当者は何か仕事をしている。忘れないようにという配慮かも知れないが、書類を一瞥して、結局、いくつか質問した。「振り込み先は銀行でも、いいのでしょうか?」「いえ、郵便局だけです」まあ、これは当然だろう。「ゆうメイト保険の加入用紙」というのがあった。「これは何ですか」「みなさんに加入していただくことになっています」「いくらですか」「500円です」「実は、明日で辞めさせてください」「え!」と言った後、彼は、その書類をはずした。

業務開始時に、職員責任者が「明朝、郵便物区分けが終わるまで残業していただきます」と一方的に告げた。立場は理解できる。初日から毎日残業が続いている。昨日も、残業しようと思えばできたが、体調が悪いと言って自分だけ定時に帰った。それだけに、今日は仕方ない。早朝出勤の主婦たちを集めても足りない。始業時に郵便物を渡さなければならないから、課長も入って、懸命にノルマをこなそうとしている。ぎりぎりで間に合った。しかし、明日からも同じ残業が続くことは目に見えている。理由は、アルバイト不足?8時30分、始業のチャイムが鳴り、音楽が流れた後、「郵便体操を始めましょう」のアナウンス。だらだらと手足を動かす配達員たちを横目にはやばやと階段を降りた。

5日間の体験で十分だった

本当は初日だけ勤めて辞めようとも考えたが、局側に迷惑がかかるかもしれない、と5日間だけ働くことにした。
しかし、もう2度とこの仕事をすることはない。

アルバイトを終えての感想。

1. 郵便事業は、そこで真面目に働く人たちの愚劣とも言える労働に支えられている。
2. 職員たちは、どのような意識で毎日、仕事を続けているのだろう。悲しい職場だ。
3. 生活に追われる非常勤職員やアルバイターたち。今を楽しめばいいというフリーター感覚とは異なる。
4. 作業を機械化するにも限界がある。だから、人手が必要なのだが、そこで働くことの目的は金だけであり、労働の喜びや感動はもたらさない。時給だけが目的であれば、パチンコ店など、もっと条件のいいものは探せばあるだろう。
5. 郵便局のアルバイトに魅力を感じる若者は少ない。最初から関心もなく、仕事の対象外だろう。局側は、人員確保の努力が足りないとも思う。
6.自分の体験は例外的とも思ったが、どうもそうではないらしい。気の利いた人には勧めない。
7. 中央の幹部職員たちは、現場をどれだけ理解しているのか。役人天国を謳歌しているのではないか。
8. 世の中には、同様の職場環境は多いだろう。そこで甘んじて働いている人も当然多い。だからこそ、働く喜びを味わえる仕事にめぐり合えた人は幸せだ。(完)

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